十輪院(奈良市)
令和3年12月16日(木)、午前、啓林堂書店奈良店で購入したばかりの『十輪院の歴史と信仰』(元興寺文化財研究所編、京阪奈教育情報出版、2021年)を手に十輪院(じゅうりんいん、奈良市十輪院町)を訪ねました。
十輪院は、本尊の重文「地蔵石仏龕(がん)」(鎌倉時代前期)や国宝「本堂」(鎌倉時代)で有名ですが、前掲の本を手に探訪したことにより、地蔵石仏龕や本堂に関する知識が深まっただけでなく、これまで見過ごしていた仏像などをじっくりと拝見することができました。
地蔵石仏龕は、(1)中尊の地蔵菩薩立像、(2)側壁の十王坐像、(3)扉石の弥勒菩薩像と釈迦如来像、(4)袖石の金剛力士像、(5)手前の引導石(棺置石)などから構成されています。
これらは全て花崗岩の切石で作られていますが、三つの種類に分かれます。お寺の方によると、地蔵菩薩は、湿度が高いと水分を含んでしっとりとしたお姿になるそうです。
製作されたのは鎌倉時代前期ですが、その時は露仏・露座の状態でした。
その後、13世紀に石龕(せきがん、石の厨子)が付加されました。しかも、この石龕は一様でなく複数の石龕を組み合わせたものだそうです。
境内には石仏龕の他に、十三重石塔(鎌倉時代、今は十層)など97点もの石造物があり、石の霊場だったと考えられています。
本堂は本来は石仏龕を拝むための礼堂だったと考えられており、地蔵堂(覆堂)は1613(慶長18)年に再興されたものです。
本堂の南東・南西にある展示ケースには、たくさんの小さな仏像がおられます。尊名が書かれた紙片があるだけですが、前掲の本には詳しく紹介されています。
私は特に、誕生仏立像(奈良時代、銅造、8.1cm)と地蔵菩薩立像(鎌倉時代、木造、18.3cm)が気になりました。
お寺の方に“石仏龕以外にも立派な仏様がおられますね”と話したところ、“元興寺文化財研究所の調査により科学的なデータが明らかになって良かった。寺の言い伝えと異なる部分もあるが、学術調査の結果と信仰とは別問題だ。”と言っておられました。もっともなことだと思います。
なお、東博の法隆寺宝物館の北には旧十輪院宝蔵が移築されています。
移築前は本堂の東・やすらぎ花壇(共同墓地)の場所にあったそうです。