日本遺産認定記念シンポジウム「葛城修験(大阪会場)」(大阪府泉佐野市)

 令和3年2月27日(土)午後、大阪府泉佐野市で開催された日本遺産認定記念シンポジウム「葛城修験」を聴講しました。2月13日(土)に奈良会場で開催された同じタイトルのシンポジウムに参加したのですが、基調講演講師の人選ミスなどで消化不良だったので、パネリストが豪華なこのシンポジウムにも参加することにしたのです。


 「日本遺産」とはストーリーを評価するもので、文化遺産の価値づけを行う「世界遺産」とは違った趣旨のものです。修験道とは山岳信仰に仏教などが集合した宗教のことで、役行者が開祖と仮託されています。修験道と聞いて最初に思い浮かぶのは世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の「吉野・大峰」ですが、その前に役行者が開いたのが「葛城修験」です。

 

 最初に犬鳴山 七宝龍寺(いぬなきさん しっぽうりゅうじ)の東條仁哲(とうじょう にんてつ)貫主が挨拶を兼ねて葛城修験の概要を説明されます。
 豪華な講師やパネラーは東條猊下の人脈で集められたようです。基調講演の講師である金峯山寺長臈の田中利典(たなか りてん)師に対して、“日本で一番修験道を勉強しているが、葛城修験の勉強だけが足りない”と苦言を呈されました。それだけ期待されているのでしょう。
 その田中師は、(1)修験道には①大自然が道場、②宗派を超えた実践仏教、③民衆の宗教、④神仏習合と四つの要諦がある、(2)葛城修験の日本遺産登録を機会に信仰や歴史・風土・文化を知ることで未来を創造することが大切など、分かりやすく説明されます。動画による修験の紹介、田中師と参加者が「六根清浄・懺悔懺悔」を唱和するなど40分では短すぎる多彩な内容でした。


 次の講師は、三井寺(園城寺)長吏の福家俊彦(ふけ しゅんげん)師です。
 豊富な画像を示しながら講演され、大峰修験と比べて葛城修験には(1)大峰の「密の峰(金剛界・胎蔵界)」に対して法華経による「顕の峰」、(2)参加しやすい巡峰修業、(3)里と山を結ぶ修行道場の特色があると説明されました。


 続くパネルディスカッションは、基調講演の講師二人に、作家・僧侶の家田荘子(いえだ しょうこ)さん(『極道の妻たち』の作者)、郷土史家の樋野修司さんが加わります。
 樋野さんが“前々から葛城修験は村の中を通る仕組みになっていると感じており、福家師の講演を聞いて意を強くした”と発言されます。
 これを受けて、福家師は“山伏は常民だけでなく被差別者を受け入れていた”と話を発展されます。
 さらに、田中師が、(1)「山の行より里の行」と言うように山の行だけを行うのは単なる仙人で里の行も行うのが山伏、(2)私は「紀伊山地の霊場と参詣道」を世界遺産にするために尽力したが当初は地元の人が吉野の価値に気づいていなかった、(3)葛城修験の日本遺産登録は地域が変わる大きな機会だ、と敷衍されます。
 家田さんは、僧侶として修業や布教をされるとともに、社会的に虐げられている女性の支援活動もされています。これに関して福家氏は“家田さんの活動は山伏の活動そのものだ”と評価されます。また、田中師は“家田さんは役行者が生きていると信じている「変わった人」(後で「特別な人」と訂正(笑))”と発言され、家田さんは“修業していると役行者様が次はあそこで一緒に修業しようと言われる”と見事に受け止められます。このようにパネラーの発言が有機的にかみ合っています。


 最後に、田中師が、(1)世界遺産登録の際にイコモスの人が「門番」の役割が重要だと言っていた、(2)日本遺産登録を契機に地域の人がクリエーターとして葛城修験のことを考えることが重要、ときれいにまとめられました。


 修験道一般や葛城修験への理解が深まっただけでなく、日本遺産登録を契機とした地域のあるべき姿についても考えることができた充実した一日でした。

2021年02月28日